夕焼け列車 #千林かほり-4
降りる人も、乗る人もほとんど無く、静かに、また汽車は走り出しました。
私はまだ、目の前の黄金色の海を、ぼんやり眺めていました。
「ここ、空いてますか?」
あまりにも突然だったもので、
はっと動揺してしまうと同時に、抑えていた(つもりの)嫌悪感が溢れてしまいました。鋭い目つきで声の主を確認し、慌てて我に帰り元に戻りました。
どうすれば良いのでしょう。何も考えられず、何も反応出来ず、ただそこに立っていました。
「じゃあ座りますよ」
取り敢えず言われた通りに、避けて席への道を開けました。
声の主、四十代位の主婦でしょうか、が荒げた息を整えながらその体をゆっくりと降ろしました。
大きな二つのレジ袋が足下を占領しています。
「ふぅ」
一つ、大きく息をついて整えて。それから顔をあげて、
「そういえば、何で立ってたんですか?」
え?
まさかの一言に、私は固まってしまいました。
予想もしなかった言葉。また動揺してしまいました。
私も主婦のように心の中で一つ息をついて、冷静に考えてみました。
わからなくて、腹が立つ。
主婦がなぜこんなことを聞いたのかわからないし、意地がまた舞い上がってきて腹が立ちました。
別にどうだって構わないでしょう。
この言葉が喉から押し出されようとしたその時、
「きっと誰かが空けてくれたんでしょう?」
絶妙の間で主婦は私の言葉を遮りました。私の心でも読んでいるのでしょうか。
主婦はまた、口を開きました。
「そんなのつまんない意地でしょ う。立つのは私たちの役目なんです。空けてくれた誰かも報われない。甘えてみない? 席は空いてたら座るものじゃない? たまには休んでみませんか」
主婦は、実に流暢に話しました。
私は、まるでどこかのコマーシャルのように、体に突っかかっていた物が取れたような、そんな気がしました。
私は、誰かに言って欲しかったのでしょうか。
もう大丈夫ですよ。
休んでもいいんですよ。
無理は禁物ですよ。
頑張るのなら、普通のことでいいんですよ。常識的なことでいいんですよ。
自分では分かっているつもりだけれど、なかなかすんなりと受け入れなかった私の、背中を押して欲しかったのでしょうか。
私は、どうせ"歳だから"という理由で気を遣わせているのだという気持ちがありました。それをあからさまに出されていましたし。
ああ、私は「出来る」のに「出来ない」とされていたことが、不満だったのでしょうか。
そうかもしれません。でももう、そんな気負いはなくなりました。気を遣ってもらうことは悪いことではない。大丈夫なら、大丈夫と言えばいい。その行為に甘えてもいい。気を張り巡らす必要などないのです。
まさか、こんな訳のわからない人に気づく手伝いをしてもらうとは思ってませんでしたが。
やがて、主婦は一人立ち上がり、降りて行きました。
また、席がぽっかり空きました。でも、少し前と違い、その空間は寂しいものではありません。
ふと思い出したように少年に目を向けると、よかった、重苦しい雰囲気は感じられません。
私の目の前は、相も変わらず黄金色の海が広がっています。
−−−
……ふぅ、終わった。
長い、長過ぎるぞ。
一ヶ月くらいか?
もう熱は衰えてしまったのか?
いや、まだ書きたい。書きたいです。
そんな自問自答をしている今日この頃。
本当に長かった。いろいろあって、最近は寝る時間も零時を回るという始末。
ちょっとやばいね。でも頑張るね。
試験があと一週間かな。oh…
今日のオコトバ
服屋の店員がこっちに寄ってくる姿は完全にポケモントレーナー